『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』（1968）『ゾンビ』（1978）などの巨匠・故ジョージ・A・ロメロ監督が1973年に手掛けた幻の未発表映画。3年前に存在が発見され、4Kレストアが行われた。もともと年齢差別や高齢者虐待について世間の認識を高めるためにルーテル教会がロメロに依頼した企画だったが、出来上がった作品は老人の悲惨な状況が容赦なく映され、そのあまりにもストレートに当時のアメリカ社会を描いた内容に依頼者は慄き、危険過ぎると判断され封印されていた。多くの家族連れやカップル、若者で賑わう遊園地。白いスーツに身を包んだ優しそうな老人はひとり、無視され、罵られ、突き飛ばされ、存在を否定され、孤独と屈辱にまみれ、行き場を失い泣き崩れ、精神が崩壊、思考が停止する。娯楽性は皆無。当時のアメリカ社会を痛烈に批判。ロメロがある意味での教育映画を撮っていたという希少性。ホラー映画ではないがロメロの視点で現実を映し出した貴重な作品であり、半世紀の封印を経て日本に上陸した本作を見逃すことは映画ファンならばたいへんな失態といえるだろう。この世の孫たちは心を破壊され、鑑賞後の心持ちと行いが試される。